海外渡航ワクチンは、①年齢、②滞在期間、③準備期間、④渡航目的と行動、⑤本人や会社の危機意識、などの条件を加味して適切な計画を立ててゆきます。

外務省「世界の医療情報」は、多くの国・地域の現地医務官(医師)が収集した最近の疾患発生数やリスク、現地国民の小児定期接種などの情報が掲載されていて参考になります。渡航先によっては前任者や現地の日本大使館などからも情報収集し、自身の接種歴も考慮した適切な渡航ワクチンを選んでいただきたいと思っております。

(「tips(ティップス)」とは、「秘訣や裏技」という意味で広く使われている言葉です。)

以下に渡航ワクチンを選ぶ時の主なポイントを挙げておきます。

渡航ワクチン選択のtips

麻しんの感染力はかなり危険

2015年3月WHOは、日本が日本由来の麻しんを排除したと認定しました。しかし、その後も日本国内では感染が多く報告されており、多くは中国やフィリピンをルーツにした麻しんウイルスの感染でした。

2016年9月に関西国際空港で従業員や空港利用者あわせて40人以上の集団感染の事例(中国やモンゴルで多いタイプのウイルスが原因と判明)が大きく報道されました。また、2018年4月には台湾からの旅行者に端を発した麻しんの感染が沖縄や名古屋、関東に2次、3次感染と拡大して、名古屋地域では麻しんの検査やワクチンも不可能になるほどの問題になりました。

麻しんは結核と同じく空気感染(空気中のウイルスを吸入して感染)で感染が拡大するのでワクチン以外の感染対策では厳しいものがあります。日本をはじめ、すべての国が麻しんの免疫のない人(感染者、感染する可能性のある人)には入国してほしくないと考えています。短期の旅行であっても、渡航前に血液検査で抗体の有無を確認して、免疫のない方は渡航前に接種する必要があります。

A型、B型肝炎ワクチン接種の応用編

WHOは、すべての乳児がB型肝炎の予防接種を受けることを推奨しており、日本でも2016年10月からB型肝炎ワクチンの接種は、任意接種から定期接種に移行してすべての0歳児が3回の接種を受けるようになりました。10歳未満の小児では規定回数である3回のB型肝炎ワクチン接種でほぼ100%の抗体獲得が期待できますが、20歳台になると抗体獲得の確率が90%ほどに低下してゆき、30歳以上では70%ほどに低下するという報告もあります。A型肝炎ワクチンも若年者では抗体獲得の確率は99%ほどですが、30歳以上では90%程に低下します。規定回数である3回接種の後の抗体検査で陰性の場合、一般的には血液検査で抗体価を見ながら5~6回まで接種を追加してゆきます。

当院では30歳以上でも抗体獲得の高いTwinrix(A型B型肝炎混合ワクチン)を輸入して、30歳以上の方に推奨しています。日本で認可されているB型肝炎ワクチンの2倍のワクチン成分が含まれており、3回のTwinrix接種で抗体獲得の確率は90%以上と報告されています。

また、渡航までに3回接種(6か月の準備期間)が出来ず2回接種(1か月の準備期間)で渡航する場合は、30歳未満であってもTwinrixでの接種が推奨されます。肝炎のハイリスク地域に急いで行かなければいけない方、緊急の災害援助隊や災害活動な血液や体液に触れるリスクどの高い活動に従事する方の場合には、アメリカでは2007年に0、7、21(~30)日と1か月に3回接種して1年後に4回目の接種をする方法が認可されています。

30歳未満の方でも、日本製での3回のB型肝炎ワクチン接種で抗体が獲得できない場合、当院では4回目からはTwinrixでの接種をお勧めしています。

破傷風ワクチンではなく、破傷風含有ワクチンが正解!

FORTHをはじめ多くの情報源で、致命傷になりうる破傷風のワクチン接種が勧められています。
破傷風ワクチンは正確には破傷風トキソイドという成分で、本来はケガをした時の治療薬なので、日本でも大ケガをしたり犬に咬まれたりした際には保険診療で注射しているワクチン(治療薬)です。昭和44年4月以降の誕生日の方は、幼児期の定期接種でDPT3種(ジフテリア・百日咳・破傷風)混合ワクチンによる基礎免疫が済んでおり、その約10年後の小学校6年生時の定期接種でDT2種(ジフテリア・破傷風)混合ワクチンにより更に10年程度の免疫が期待できます。

これらの感染症は日本ではいずれも稀とされているため行政による集団免疫も6年生で終了してしまいますが、欧米では飛沫感染(咳やクシャミによっておこる感染)による集団感染のリスクとなるジフテリアと百日咳を問題視しており、青年期以降のDPT3種混合ワクチンの継続接種を行っている国もあります。2歳以降に百日咳ワクチンの機会がない日本でも成人の百日咳患者が増加により、成人から乳児への感染例増加が問題になってきたため、2018年からは百日咳症例の全例を保健所に報告する制度に改められました。

集団生活を送る高校や大学、専門学校などへ留学する際には、DPT 3種混合ワクチンの接種証明が求められることはあっても、治療薬である破傷風ワクチンを単独で接種するような指示はありません。世界標準では破傷風ワクチンではなく破傷風含有ワクチン、つまりDPT 3種混合ワクチンを選択するのが正解なのです。

当院では欧米で広く用いられている成人用DPT 3種混合ワクチン(Tdap:小児用ワクチンより適量のワクチン成分が配合されている)を輸入して接種をお勧めしています。輸入ワクチン(Tdap)は国産の小児用DPT 3種混合ワクチンより費用はかかりますが、発熱や注射部の疼痛などの副反応の頻度が少なく、国際的に高く信用されています。(欧米への留学に際しては渡航前に日本製DPT3種混合ワクチンを接種しても留学先では認めてもらえません。)

昭和43年以前の誕生日の方は、幼児期の定期接種がDP2種(ジフテリア・百日咳)混合ワクチンで行われているため、DPT3種混合ワクチン(輸入あるいは国産小児用)と破傷風ワクチンを4週間隔で接種してから渡航して下さい。

蚊を甘く見ている?日本脳炎ではなくアジア脳炎と理解すべし!

日本脳炎は東南・南西・東アジアが流行地で、インドネシアやタイなどインドシナ諸国・中国・インド・ネパールも含めて1~2回の追加接種が必須です。小児や高齢者が重篤になりやすいですが、健康な成人でも発症することがあります。日本脳炎に限らず、蚊の媒介する感染症は近年報告例が増加しています。世界的な環境変化もあり、日本で唯一日本脳炎の定期接種から外されていた北海道でも2016年4月より定期接種に追加されました。

狂犬病ワクチンは本当に必要か?

アジアや途上国であっても都市部であればワクチンは入手可能であり、多くの海外赴任者には暴露前(咬傷前)接種は不要なことが多いはずです。4回の暴露後接種(0、3、7、14~21日)を、咬まれてから3~5日目までに開始するようにして下さい。現地での迅速な対応に不安がある方は、日本で暴露前接種をWHO方式(0、7日)で2回完了し、英文接種記録を持参して渡航して下さい(2018年にWHOが指針を改定して、暴露前接種は3回から2回になりました。)。

当院では世界的に評価され、多くの国で流通しているワクチンを輸入して接種しています。

渡航前の予防接種の受け方

予防接種の種類によっては、1ヶ月間隔で2~3回接種する必要のあるものもあるため、なるべく早く(できれば出発3か月以上前から)接種するワクチンの種類と接種日程を決定することが大切です。

日本国内の定期接種の時期と海外渡航の時期が重なる小児の方につきましては、渡航先での接種と帰国前後の接種で混合ワクチンの運用やワクチン成分の互換性の点でエラー(無効接種)の危険がありますので、海外小児ワクチンに精通した小児科医に事前に受診していただくことがあります。

予防接種までの流れ

  1. 電話でのご予約

    電話で渡航先、時期、目的、年齢、希望ワクチンなど伺い、来院日を決定します。可能な方は母子手帳をご準備下さい。

  2. ご来院

    受付ののち体温測定、予診表の記入をしていただきます。ご家族連れなど1件に時間を要する見込みがある際には、来院時間を指定させていただく場合がございます。

  3. 接種ワクチンの確認

    担当医より接種ワクチンの確認を致します。渡航目的やスケジュールによって予定ワクチンを変更する場合がございます。

  4. ワクチン接種

    なるべく複数のワクチンを同時に接種して、来院回数の軽減をはかります。

  5. 予防接種記録の発行

    当院で実施した予防接種の接種証明書(当院書式)を発行しております。母子手帳の翻訳などはお受けしておりませんので、ご了承ください。

  6. 次回来院日の確認

    お会計の際に、次回のワクチンの種類と来院日を確認いたします。

全員の方に予診票、予防接種歴表をお願いしております。待合室での記入は意外と手間と時間がかかりますので、下記の予診表ダウンロードをご利用いただき、ご記入して持参してください。

海外渡航のためのワクチンの予診票

予防接種をご予約された方で、キャンセル・日程変更される場合は必ずお電話にてご連絡下さい。ご連絡いただけない場合、来院予定日を過ぎた時点でキャンセル扱いとさせていただきます。

定期休診日(日・祝))以外に、年末年始、夏季休暇、その他の臨時休診による対応不能な期間がございます。その期間に予防接種が必要な場合は他の専門医療機関をご利用いただくことになりますので、接種記録を紛失しないようご注意ください。